「いいの。悪いのはこの人よ。あなたはなにも知らなかったんでしょ。あとはよく話し合って。もしもあなたが本気なら……孝之はあげるわ。私もさすがに疲れたから、今度ばかりは別れてもいいと思ってるの」

「春香」

「もううんざり。あなたなんかと出会わなければよかった。よく今まで我慢したと、自分を褒めてあげたい気分よ」

彼女は踵を返して背中を向けると、颯爽と歩きだした。

「待てよ」

佐伯さんが彼女を追おうとして、はっとなり私を振り返る。

「行ってください。早く」

彼を促す。

「あの、俺……」

「いいから。早く」

なかなか歩き出さない彼に、私は笑ってみせた。

「お話を聞けて良かった。間に合って本当に良かったです。私みたいに後悔してほしくないです。……佐伯……課長」

佐伯さんは、一瞬悲しい目で私を見たあと、ふっと笑った。

「このまま終わるのは、本当に惜しいよ。君に本気で惚れているんだけどな。少し時間をくれないか。また、話し合おう」

「話し合う相手は私じゃありません」

「星野に渡したくない。俺は……諦めないから」