「話はもう終わった?業務に戻れるかな」

拓哉が静かに尋ねてきた。

「あ。は、はい。……すみません」

よかった。彼は普通に接してくれる。
なにも怪しんでなんていない。

私は部屋を出ようとドアに向かった。

「あ。首。ついてるよ……。キスマーク。仕事中にそんなことしてたんだ」

「えっ!嘘っ」

慌てて首を押さえて、正面に立つ拓哉を見上げた。

「そう……嘘だよ。……なにもついてない」

「え……。あ……」

思えば、首筋にキスなんてされてはいない。

からかわれた。
顔が急激に熱くなる。

「ごめん、本気にするなんて思わなくて。……悪かったよ」

バツの悪そうな表情の彼を見て、突然、無性に腹が立ってきた。
確かにキスはした。だけど、その事実をこんな風に知られてしまうなんて。

「ひどいわ……」

言葉と一緒に、涙が溢れそうになる。
それを、ぐっと堪えながら彼を睨んだ。

せっかく、佐伯さんともう一度真剣に向き合おうとしているのに。
あなたなんて関係ないと、堂々と言えるようになりたい。

彼を睨んだりするのは、ただの八つ当たりみたいで、こんな自分は好きじゃない。

だけど、からかったりしてほしくないの。

そんなことに……期待してしまう自分が、本当は一番嫌だから。