コンコン。

突然、ドアをノックする音がして、二人でビクッとなり、慌てて唇と身体を離した。

「はい」

佐伯さんは返事をすると、ネクタイを正しながらドアに向かう。

私はドキドキする胸を押さえながら、ドアの方を見ていた。
就業中に二人でこんなところにいて、怪しまれるのではないか。気が気じゃない。

だが、佐伯さんは平然と上司の顔に戻っていた。
こんな場面が彼との年齢差を感じさせる。

「佐伯課長ですか。クボタ運輸の方が受付にいらしています。応接室にお通しすればいいですか」

ドアの向こうから聞こえた声に、さらに心臓がドクッと揺れた。
聞き覚えのある声だった。

「ああ。頼むよ」

言いながら佐伯さんがドアを開けると、そこにはやはり、拓哉が立っていた。
どうしてここにいることが分かったのだろうか。
私は動揺して、混乱する。
まさか、キスしていたことも知られているのかしら。そんははずはないわよね。

別に、たとえ拓哉がお見通しだったとしても、もう彼とは関係ないのだから、焦ることはない。
そう思いたいのに、胸の鼓動は治まるどころか、どんどん早くなる。

「お話中すみません。お客様が急いでいるようなので、社内を探していました。こちらが使用中だったのでここだと……」

申し訳なさそうに言う拓哉に、佐伯さんは微笑む。

「いや、いいんだ。ありがとう。……じゃあ、芹香ちゃん、また終業後に」

「は、はい」

佐伯さんはこちらを向いてニコッと笑うと、部屋を出て行った。