「芹香ちゃん……。キスしても……いい?」
「えっ。……今……ですか?」
佐伯さんが会社で、こんなことを言い出したのは初めてだったので、少し驚く。
「うん。君が……可愛いから」
言いながら、彼の唇が私の唇を、そっと優しく包む。
目を閉じて、それを受け入れながら思う。
大丈夫。
ちゃんと佐伯さんを心から愛せるようになるわ。
この、穏やかで、包み込まれるような愛に、溺れる日がきっと来る。
しばらくして、静かに唇から温もりが離れ、目を開く。
「ごめん。今……確認せずにはいられなかった。君は、俺が好きだと。公私混同だね」
照れくさそうに言う彼を見つめながら、私は可笑しくなって、フッと笑った。
「私は……ちゃんと、佐伯さんが好きですよ。どうして?」
佐伯さんが、子供みたいで可愛く思えた。
「いや、だから……星野くんと君が仲良くして……。うっ……」
今度は私から口づけた。
そのままふたりで立ち上がり、きつく抱きしめ合う。
なにも言わないで。
私自身が、一番よく分かっているの。
佐伯さんといると幸せになれる。
私は、あなたを好きだわ。
拓哉はもう、私を見てはいない。
私も彼に再会して戸惑っただけ。
この恋に、拓哉とのことは影響なんてない。
昔の自分を、思い出しただけ。
ただ、それだけのことだ。


