このままではいけない。
私の気持ちは、いずれまた、拓哉に戻ってしまう。
彼しか見えなくなる予感がする。
あの日のように、佐伯さんを苦しめてしまうかも知れない。

これまでの自分と、きっぱりと決別しようと決心したのに。

もしも、もう一度、拓哉に裏切られたなら、おそらく次は立ち直れないわ。
今はどうしても、拓哉を信じきれない。
そうなる訳にはいかないのだ。
辛くて苦しい毎日に、恐怖を感じる。

「……今夜、ご飯を食べに行きませんか。佐伯さんの予定が空くなら……。朝まで一緒に過ごしませんか」

気持ちを佐伯さんに向けないと。佐伯さんが言うように、彼のものにならないといけない。
急に湧き起こる、なにか使命感のような感情。
思わず誘っていた。

だが、私の急な申し出に、彼は意外そうな顔をした。

「うん、いいよ。……だけど、芹香ちゃんからそんなことを言い出すなんて珍しいな」

「本当は、あの日からずっと、ゆっくりと話したいと思っていたんです。すみません、突然で」

「全然構わない。大歓迎だよ。……あの日のことは……もしも気にしているなら忘れて欲しい。前も言ったけど、無理はしないで。俺が急ぎ過ぎたんだ」

佐伯さんの柔らかな笑顔を見ながら、改めて思う。
気持ちが不安定な今こそ、佐伯さんとの時間を大切にしないといけない。

拓哉のことを頭の中から完全に消し去りたい。

愛していた事実を、忘れてしまうほどに。