だが、どうして。
好意を持たれるのは迷惑なはずだっただろ。
もしも、富樫とうまくいけば、それでいいじゃないか。
自分でも、分からない。
なぜこんなに気持ちがざわつくのか。

ふと、頭に浮かぶのは、富樫が言ったように先程の勇敢な彼女の顔。俺も彼と同じように、普段の彼女からは想像もできないような一面に、驚いていた。
だが本当は、君が少し震えていたことに俺は気付いていた。

「拓哉?どうしたんだ」

「いや……。なんでもない」

ロッカーの扉を閉めて、カバンを肩にかけた。

「もしも俺が本気になったら、もちろん拓哉は協力してくれるよな」

そんな俺に、富樫が笑いながら言う。

協力?
秋田と、富樫の恋を?俺が?

「ああ……。頑張れよ」

口ではそう言いながら、思う。

彼女は俺を好きなんだ。
きっと、お前のものにはならない。
彼女の俺への気持ちが、消えるはずなどない。

俺は、足早に部屋を出た。