「由衣さん」
拓哉によく似ていて、背が高く綺麗な彼女は、周囲から注目を浴びているように思えた。チラチラとあちこちからの目線とぶつかる。社長秘書という彼女の立場的に、制服を着ていないせいもあるだろう。
シンプルな白のパンツスーツなのに、その容姿からか華やかに見える。
由衣さんと拓哉が姉弟だということは、社員たちは誰も知らない。私も知ったときは驚いた。
「あれから拓哉とうまくいったのね。よかったわ。拓哉ったらのろけてばかりなの。嬉しそうにあなたの話をしているのよ。まるで子供みたいよね」
私は照れて俯いた。
拓哉とのことは、会社でも誰にも話してはいないので彼とのことを話されると、慣れないせいか恥ずかしくてたまらない。
「会社もね、慶太が頑張って黒田社長と父との関係をよくしようとしてるの。父も米永倉庫を受け入れるつもりになってる。このままいけば、合併することになると思うわ」
すべてが好転しているようでほっとする。由衣さんたちの結婚も、おそらく認められるだろう。
「だから、あなたたちも、もう大丈夫。いっそ今すぐに結婚したらいいわ。そういえば父も、拓哉の話を聞いて、あなたに会いたがってたわ」
「そんな。結婚なんて。私なんて、まだまだで。社長にお会いするなんて」
謙遜して話しながら思う。ひとつだけ、気がかりなことがある。
彼女があれからどうしているのか。
同情なんかじゃない。私も、ついこの前まで彼女と同じ立場だったのだから。


