「君は、花木さんと拓哉くんが婚約したのを認めたの?君が彼女なんじゃないの。このまま身を引くつもりなのかい?」

ストレートに聞いてくる彼を見て目を見開く。

「これはさ、いわば政略結婚ってやつだよね。拓哉くんも君も、納得してるの?」

納得するもしないも、拓哉が決めたことを、恋人でもない私が意見できるはずもない。

「以前に付き合っていましたが、今は関係ありません。あくまで、上司と部下の関係です」

はっきりと言い放つ。
まるで自分に言い聞かせるように。

「上司と部下ね……。ふーん」

この人はなにを言いたいのだろう。こちらが不利になる情報でも聞き出したいのだろうか。

「私からお話することはありません。拓哉さんとは無関係ですから。お役に立てなくて、申し訳ありません」

席を立った私に、彼が言う。

「拓哉くんのお姉さんを知ってる?星野由衣。……彼女は俺の恋人なんだ。だから、彼のことはよく知ってる。だけど拓哉くんは俺を知らないと思うけどね。会ったこともないし。だって俺は、黒田の息子だからね」

「えっ」

私は驚いて動きを止めた。