「真唯子さん」
「こんばんは」
カウンターの席に腰かけた。
「さっき職場の人とご飯食べてきて。今日いるっていうから、飲みに来ちゃった」
「ご飯。何食べてきたんですか?」とおしぼりを手渡す。
「あ、ラーメン」
しまった。にんにく臭いかもと内心慌てるけど
「ラーメン。僕も好きですよ。どこ行ったんですか?」
「んと、ワタナベに行ってきた」
「ああ、あそこつけ麺もおいしいですよね」
「あ、そうなんだ」
「たまに行きます」
頼んでいたハイボールに口をつけた。
他愛ない話をしているとさっきまで意気込んでいたのが馬鹿みたいに感じて力が抜けた。
「綾仁くん、ここ働いて長いの?」
「ん? そんなことないですよ。まだ半年くらい」
「へえ」
「僕、去年まで大学通ってたんですけど、辞めてから働き始めたんで」
「そうなんだ。でもかけもちって大変だよね」
「はい。でも毎日働いてるわけじゃないし、こうして人と話すことも好きだし色々勉強になってます」
という笑顔に嘘はないようで、身を粉にして働いてるような感じではなく、好きから動いてるようにとれて好感が持てた。
他のお客さんに呼ばれ離れることがあっても、またカウンターに戻ってきては話を振ってくれるので、居心地は良かった。
あと一杯だけ飲んで帰ろうかなとメニューを見ていると、扉が開いた気配を感じて視線を向けた。



