父の葬儀のときに参列してくれた若槻と矢嶋課長の顔をなんとなく思い出した。
「手伝えることがあれば、言って下さいね」と、帰り際若槻は何度も言ってくれて、課長はお悔やみの言葉を述べた後は、黙っていた。
「だから課長、小千谷さんのこと信頼してると思うし、意味のないことは言わないと思いますよ」と、若槻は言った。
何も知らなかった。
意味のないことは課長は言わない。確かにそうだ。
よく考えると部下に恋愛の話なんてする意味がないと思って話を終わらせたんだろう。
胸がすくと同時に疑問が浮かぶ。
部下の恋愛事情にも口を挟まなそうなのに、中村のことをすごく気にしていた。
「お待たせいたしました。チョコレートケーキになります」
差し出されると、若槻の顔が明るくなった。
店員の顔を見て、驚いた。彼も目を丸くしているので私を覚えているようだ。
「あれ?」
「あ」
「靴屋の」
ランニングシューズを買ったお店にいた男の子だ。
「すごい。偶然ですね」
「掛け持ちしてるの?」
「はい。昼は向こうで、夜はここ知り合いのお店なんですけど、手伝ってるんですよ」
「へええ。すごい働くね」
感心して言うと「はい」と微笑んだ。
ではごゆっくりと離れると若槻が「誰ですか、あれ?」と直球で尋ねる。



