外回りから帰ってきた中村がデスクに戻っていた。
「中村、お疲れ」
「あ、お疲れ様です」
「プレゼン、大丈夫そう?」
「え? あ、まあ、どうにか。明日小千谷さんも来てくれるから心強いです」と柔らかく笑った。
私はマグカップをデスクに置いてから、それとなく尋ねる。
「中村さ、最近何かあった? やっぱりプレゼンの準備は大変だったよね」
「最近……いや、別になんも。準備もまあ大変でしたけど、やることやったんで」とサバサバ答えた。
「本当に?」と念を押すと、口をつぐんだ。
言うか言わないか逡巡しているようにも見える。
やはり、何かあったのだろうか。

「中村?」
「実はT病院にイケメンの先生を見つけてしまって」と小声で答えた。
「はぁ?」
「……いや、違うんですよ。リアル乙女ゲームのキャラみたいな先生だったので気になってしまうだけですから。恋じゃないっす」と手を大げさに振って否定した。
「え……それで何か様子がおかしかったの?」
「様子おかしかったすか?」
「ううん。まあいいわ。なんか安心した」と思い切り脱力した。
「え、なんすか? そんなにおかしかったすか?」
課長が気にしてたと言いかけたけど、なんとなく言わないほうがいい気がして飲み込んだ。