視界が揺れる中、そっと帰ろうとする課長の背中を捉える。

「かっ……帰るんですか?」と、スーツの裾を引っ張った。

「ひとりで泣きたいもんだろ」
「お茶……まだ飲んでないじゃないですか」
「だから飲まねーって、言ってるだろうが」
「じゃあ、淋しいので一緒にいてください」
「……」
「……」
「そんなんだから、彼氏に疑われんだろ」
「か、課長だから言うんです。絶対に何もないじゃないですか」
「まあな。じゃあ茶、淹れてやるよ」
「淹れてやるよって、私の家ですけど」
「うるせーから、大人しく泣いとけよ」と、私の頭をぽんと撫でた。

「えっ?」

課長に撫でられた部分を自分の手で触れた。優しい仕草だった。

「めんどくせーから、酒にするか。ビールと焼酎と日本酒と泡盛あるけど、どれにする?」

勝手にキッチンへ向かう。

「だから、ここ私の家なんですけど」