「ダメです。一緒に食べてください」
「なんでだよ」
「課長。そういえばご自分の家の鍵、持ってますか?」
「鍵?」
「なんか私のポッケに見知らぬ鍵が入っていて、もしかしたら、課長のかと思って」
「お前いつの間に」と、課長が掴もうとする前に鍵を胸元に隠した。

「お前、何してんだよ?」
「ケーキ、食べてくれるまで帰しません」
「……返せ」
「こんなところに手をつっこんだら、セクハラですよ」

丁寧に舌打ちをすると、課長は家にあがった。

「お前、随分……」

リビングを見渡し、呆れたというよりも、こんな汚い部屋に俺を入れやがってと怒っているように見えた。

「ああっ。しまった。いつもはもっと綺麗だったんです。今週はそのおひとり様デビューだったので、気合が入りまくってこのような結果になりましてです」
「おひとり様デビュー?」
「所長! ビールと焼酎とワインと日本酒どれがいいですか? あ、泡盛もありました」
「随分選択枠が多いし、お前、呼び方間違えてるのわざとだろ? というか、お前は飲むな」と、缶ビールを私の手から奪う。
仕方がないので、冷蔵庫を開けもう一度同じものを取り出す。

「かんぱーい」

観念したのか、課長も缶ビールのプルタブを開けた。