「でもそうとしか生きられなかったんだから、ただそうなんだなって、肯定するしかないだろ」
肯定と心の中で反芻する。
「……ねえ、萌花さんが顕のことを最期まで好きだったって知って、嬉しかった?」
「そんなこと知りたいのかよ」
「……ん」
「別に本人から打ち明けられたわけじゃないし、あのときの俺でもないし、そういう思いもあったのかなって感じだよ。
それと、若槻にも言ったけど、最期まで思っていようがいまいが、何も変わらない。今の俺にはなんの影響もないことだ」
「影響、ない?」
「今に心がある限り幸せだって言ったのは、真唯子だろ」と少し笑って言った。
そんなことすっかり忘れていて
「……ああ、そうか。そうだね」
と取り繕うように呟いた。
顕の今は、しっかりここにあるのだと感じて、胸が震えた。なんだか泣きたくもなった。
「まあ、でも感謝してる。それだけは、変わらないな。やっぱり」
「うん」と静かに頷いた。
例えば恋人と、亡くなって別れてしまうこと、もう好きじゃないから別れてしまうこと、それになんの違いがあるのだろう。
誰かと別れた後も、人の内側には、ただ感じる心はあり続ける。その心が反映していく世界があり続けるだけで、もしかして、大差のないことのような気がした。



