甘いだけの恋なら自分でどうにかしている


希々歌がと顕が言った。
下の名前で呼ぶのを初めて聞いて、昔はそう呼んでいたのだろうと想像した。

「萌花が俺と別れたのは、自分のせいじゃないのかって、どこかでずっと感じてたって言ってた。自分が俺の事を好きだったっていう気持ち、バレてたからってな。あの話を聞いたら、それが本当のことのように感じて、責められた気分になったらしい。別に誰も責めてないのにな」

まあ、すごい仲が良かったからな。いや、だからって譲り合われても仕方ねーけど、俺的にはと自嘲的に笑った。
「あはは、確かに」
自然と笑って返していた。
「お前は、笑うな」
「ごめん、ちょっと面白くて。どうぞどうぞってダチョウ倶楽部みたいで」
「本当だな。最終的にはどっちもいらない感じだけどな」
思わずまた笑ってしまう。顕はまったくと息を吐くけど、どこかほっとしたように見えた。

「さっき、天野から電話があった」
「天野先生から?」
「関口から番号聞いたとか言って。真唯子と今、別れたばかりだけど、そっちはどうだとか。要するに冷やかしだ」
「天野先生、そんなことするから顕に嫌われちゃうんだね」

私を見つめると
「一人にさせて、悪かった」
冬の空のように澄んでいて、心に響く声だった。
私のみぞおちが軽くなると、涙腺が緩んだ。