甘いだけの恋なら自分でどうにかしている


「顕、大丈夫?」
俯いたままの顕の顔を覗き込んだ。どうしてか気落ちしているように見えて。
「は?」と言うと、ははと短い笑いが零れた。
「第一声がそれか。他の男に告られといて、手まで握られといて」
「……はっ。いや、不可抗力!」と握られたほうの手を振って、無実を主張する。どうやら、抱きしめられたところは見られていないようだ。

「どうするんだ。ああいう純粋そうな奴を、その気にさせたら大変そうだぞ。ああ、そういえば真唯子、昔、あいつの事狙ってたよな」
「……記憶にございません」
「政治家の謝罪かよ。まあ、いい」と言うので、本当は、何の疑いも心配もしていないのだろうと感じて、代わりに彼の手をしっかり握った。

そっと唇が重なり、離れる。ひんやりした外気に触れ、今度は自分から顕に口づけた。
心がふんわりして、ほっとする。顕の懐にそっと頬を寄せて、それから顔を上げた。

「若槻は?」
「ああ。タクシーに押し込んで帰したぞ」
「押し込んだ? え? あの状態の若槻を?」
鬼畜と言うと
「まあ、笑ってたから、大丈夫だろ」
「本当に?」
「ああ。どうでもいいから、さっさと幸せになれって言ったらな」
「ふっ。なんか顕らしいね」
そう言うと、睨まれた。ゆっくり歩みを進める。