甘いだけの恋なら自分でどうにかしている


「俺が来たから帰るって、小千谷ちゃん……話題になってたって、もしかして悪口?」
「いや悪口言ってたわけじゃなくて。えっと、ごめんなさい。天野先生が悪いんじゃなくて、今から顕が来るから、会わないほうがいい気がしたので、失礼します」
若槻も天野先生を良く思ってなかったと聞いた。だからきっと、その方がいい。慌ててコートと鞄を手に取り、小さくお辞儀をしてレジへ向かった。

綾仁くんがレジを打ち終わるのを待っていると
「小千谷ちゃん、忘れ物」と、天野先生が私のスマホを手渡してくれた。
「あ、すみません」
顕からメッセージが来てないか確認しようとすると
「その様子だと、あれだね」
「え?」
「本当に言ってないんだね。顕人に、あの事」
頷いて
「ただ……言ってないのは、あのときみたいに頑なな気持ちではないです。それを私が伝えていいかわからないっていうのが、今の正直な気持ちで言えてないだけです」

肌に冷たい外気が触れた。
「まあ確かに、本当に萌花が顕人に真実を伝えてほしかったのか、正直わかんないしな。
つうか、死んだ元カノが自分を思って嘘ついて別れたって、どんなドラマだよって話だしね。やっぱり顕人も知らなくていいのかも……」
そう言った後の天野先生の表情が固まったので、視線の先を追うと、若槻と顕が扉を開けて立っていた。