だから、実は、加賀くんの気持ちがわかりますと笑った。

それから何か思い出すように微笑むと
「それを彼に言ったら、理想なんて見た目の可愛いケーキを味わったこともないのに、好きだと言ってるのと同じだよって言われて。
面白い例えだと思ったんですけど、確かに味わってみないと本当の恋も幸せもわからないものかもしれませんね」
「……確かに、そういうものなのかもしれないね」

若槻がキラキラして見えた。
理想を手放すと感じるものが変わる。見える世界が変わるものなのかもしれない。
自分が本当に何に幸せを感じるのか、味わってみないとわからないものなのかもしれない。

幸せになる為のパズルのピースを私は、今、握りしめてるなと気づく。
じゃあ私の手放す理想は……。

「あ、課長、ここ空いてますよ」と若槻が手招いた。