「萌花さんも同じです。生きてる人に思いを託すなんてひどいですよ」
「思いを託す?」

「だって彼女、悪者になりきれてないじゃないですか。
本当に悪者になる覚悟があるなら、天野先生の名前を出さないし、華さんにも別れた理由なんて言わない。

だってもしかしたら、天野先生と顕は彼女が亡くなった後に、会うことがあるかもしれない。もしかしたら、その時に普通に話して萌花さんの話になるかもしれない。
そしたら、嘘だったってばれる可能性がありますよね。

彼女、本当はどこかでばれてほしかったとしか思えないです。
自分が死んだあと、彼の為を思って別れたっていう美談にして、本当は好きだったんだって伝えてほしかったんですよ。

だって愛とかそういうのって、生きてるから感じられるものじゃないですか?

亡くなってから、思いを……生きてる華さんに、天野先生に託すなんて変ですよ。
足枷じゃないですか。愛じゃないです。そんな伝え方ない。
そんなのずるい。本気でずるい」

膝にのせていた手に力がこもっていた。悔しかったし、自分本意な彼女が許せなかった。