中村はまだ俯いていて、おまけに顔が赤い。
若槻は察したように「加賀くんと何かあったんだね」と言った。

ようやく顔をあげると、勢いよく首を横に振る。
「いや、何もないっす。なぁんにも」
隠したい何かがあるのが自然と伝わってきて、思わず「……嘘、下手くそか」と呟いてしまう。

若槻はにっこり微笑みながら
「まあ言いたくないなら、いいけどね」
と言うので余計に怖い。
中村もひぃっと小さな悲鳴を上げた後、観念したのか「……加賀っちとキスしたっす」と白状した。

「え? 加賀くんとキス? 何? 何で?」
「いや、それがちょっとよくわかんないっていうか」
「なんでよくわかんないでキスするの?」と、若槻。

「いや、この前、二人でご飯食べたんすよ。少しお酒は入ってたけど、すごい酔ってるってわけじゃなかったんす。
その帰りに何か話してたら、あっちがちょっと突っかかる感じになって、それでなんかわからないけど、キスされたっていう感じです」