「課長、ここ会社ですよ」
「そうだな」
二つの足音が響く。手を繋いでいるせいか、歩きなれた廊下でさえ特別な場所に感じてしまう。なんだかドキドキする。

「顕」と思い切って呼んでみると「はっ?」と私を見た。
やはりまだ照れてしまい、頬が熱を持っているのが自分でもわかった。
でも、嬉しくもある。

「なんかあれですね。顕って呼ぶと自分が可愛い生き物になった気がします。なんだろう、ここの辺から愛おしさが溢れてくるっていうか」
と胸の中心に握り拳を当て、伝えた。そんな感覚が身体の中心にあった。

「幸せな奴だな」
「ええ、幸子と改名したいくらい幸せかもしれません」
「幸子」
「はい」
「もはや誰だかわからなくなるな」と呆れたように課長は言うので、笑った。