「は? ああ。若槻が言ってたのか」
「はい。本人から聞きました、色々。なんか私が課長と若槻がデキてると誤解したんじゃないかって心配してました」
「ふうん」
「その……若槻の亡くなったお姉さんと婚約してたんですね。課長のことお兄さんのようだって言ってました。この間も相談にのってもらっていたようなこととかそういうの聞きました」

課長はお茶の入ったグラスを引き寄せた。

「……課長は悲しいんですか? 前、私に聞いたことそのままお返しします」
「悲しいというより、実感がないな」

淡々とした口調だった。

「亡くなったっていうのも3年前くらいの話らしいし、そもそも別れてから会ってないからな。
だから、亡くなってることが悲しいというより、別れたまま時が止まってるのと一緒だ」

「そう、ですか」
「本当、思い出しかないな。遠距離だった時期もあったし、色々乗り越えてきたつもりではあったけど」
「へえ……」
「で、最後が婚約破棄。笑えるだろ」

椅子にもたれかけ、なぜかドヤ顔で言うので、ふふふと笑ってしまった。