はあ、と白い息を吐く。


季節はもう、肉まんが恋しくなる季節。あたしは学校の靴箱に体重をかけて寄りかかる。

首にはピンクのマフラーがぐるぐる巻きにされていて、ぬくぬくと温かさをほんのりと感じていた。

いったい何人の生徒を見送ったのだろう。ふと外を見ると、藍色に染まっている空。と。




「ヒヨリ!」
「あ、コウちゃん…!」
「遅くなってごめんな?」
「ううん。帰ろ?」



ぱたぱたと黒いボーダーのマフラーをした制服姿の男子生徒が走ってきた。

彼はあたしの言葉に無言で頷き、隣を歩く。その数センチの距離がもどかしくて、結局いつも会話は出来ていない。

あまりの外の空気の冷たさに再び、はあっと白い息を吐き出すと。ふいに聞こえる彼の声。



「寒いの?」



その低いテノールだけで、心臓がドキリとするのは言うまでもない。うん、そう返事を返すとじわりと指先に感じる熱。



「冷たっ」



その行為があまりにも自然で、不自然で。気にしないように爪先を見るけど、意識はやはり手へ行ってしまう。

しかも、そっと繋がれた彼の暖かい手は、そのまま彼の制服のポケットへ入れられる。

一気に縮まる距離。ポケットの中にはカイロが入っていたらしく、胸の奥がきゅっとなった。



「…なんか自然にしてたつもりだけど、やっぱりこういうのって照れるね」
「……っ」
「大丈夫?俺、不自然じゃなかった?」
「…うん」



その彼の言葉を聞いたとたん、同じような事を思っていたみたいで自然と笑みが零れた。そんな初々しさがうりの頃、秋の話。




「……」
「……」
「(…はっ!!沈黙!!)」
「(…なんか会話!!)」




いつもは気にならない事が急に気になって仕方がなくなった。