「ああ、理由は二つある。一つは、怨恨の線だ」




怨恨?




「ちょ、ちょっと、それってまさか私にですか!?」




「おそらく。聞く話によると、戸松は、この5ヶ月間、万智ちゃんに手を焼いていたって聞くからねえ。なんでも、文才がなくて、幼稚な文章、おまけに、救いようのない馬鹿……あ、これは、戸松が言ったから殴んないでね? とにかく、恨みを持っていて、しかも、万智ちゃんがプリン好きということを知っていてもおかしくない」




なんだか、馬鹿にされているような気もするけど、妙に納得する自分がいて、ちょっと悔しい。




「で、二つ目だけど、これは、文芸部の部室がここと同じ、東棟にあるということ。しかも、文芸部の部室は、3階のこの階段のすぐ近くにある。『ちょっと、トイレに行ってくるよ。え? ああ、大のほうさ。いやあ、昨日食べた牡蠣に当たっちゃってねえ、はっはっはっ』とでも言えば、犯行は可能だろう」




「え、戸松先輩、牡蠣に当たったんですか?」




「そんなわけがないだろう。第一、僕はそんなアホみたいな会話はしない」




牡蠣に当たったのかはさておいて、こうしてみると、戸松先輩には、動機もあるし、犯行も可能だ。




「ちょ、ちょっと待ってよ! 私はなんで灰色なのよ!」




「いやあ、長我部の場合、黒に限りなく近い灰色だから」




「裃……もう、あんたなんか助けてあげないんだからね!」




「まあ、無理もないだろう。アリバイもないようなものだし」




「戸松くん……あんた、私と同じ疑われている立場なのよ? 仲間じゃないの?」




「……カナ先輩、ごめんなさい」




「万智ちゃんまで……もう! 何よー! みんなして! 傷ついたんですけどぉぉ」