「訊いてないかもしれないけど、普通言うでしょ! 私が高校入学するときに、『実はねー、お母さん、この高校で短歌部に入っていたのよ?』くらいはさ!」




「なーに怒ってるの。可愛いんだから」




お母さんは私を完全に手玉にとっている。私は負けじと言い返す。




「お母さんたちの文集、『抗い』だっけ? 読んだよ」




「あら読んだの。どうだった? 感動したでしょ?」




本当は『恥ずかしい!』とか言って顔を赤らめると思ったんだけど、よくよく考えれば当時の俵美佐枝は私のお母さんであって、お母さんがそんなことで動じるわけがないことは生まれてた時からわかっていたことだ。




「まあ、はい……」




「で、あんたも短歌文集作るんだってね」




私は牛乳を噴き出した。




「な、なぜそれを! おじさんにも話してないのに……」




「私の情報網をなめてもらっちゃ困るなー。本気出せば警視総監にだって会えるんだからね?」




とんでもない母親だと思った。そういえば、年賀状もお母さん宛てにすごい人から来ているのを見たことがある。私の浅い知識でも知ってる人がそこそこいて、きっと他の人が見たらたまげるんじゃないかと思う。




この人望は、一体どこから……。彼女の何に動かされているんだろう……。