結局、『レインリリー』でもいい短歌は詠めず仕舞いだった。きっと加持先輩のせいだ。そうに決まってる。




家に帰ると、お母さんはいつものようにリビングに居て、編み物をしている。きっと、あれはマフラーだ。




私のお母さんこと、猿渡 美佐枝(旧姓:俵 美佐枝)は、毎年冬になるとマフラーを手編みしてくれる。私の分とお父さんの分。弁当と同じで、お父さんのマフラーの方が凝っていて、どちらかというと私の方はおまけといった感じだ。




「また今年も編むの?」




「おかえり、万智。そうよー、今年は去年よりグレードアップさせるつもりだっからねー? 乞うご期待!」




お母さんはそう言って棒針を掲げている。私ははっきり言って、このマフラーが嫌いだった。編むのは上手で、友達からの評判もいい。中学の時なんて、「万智のマフラー、今年何色か当ててみよ?」と言った賭博が行われていたほどだ。




何だかそれが馬鹿にされているような気がして、あまりいいものではない。それに私はもう高校生で、自分のマフラーくらい自分で選びたい。唯一の溜まり場だった近所のスーパーは、女子高に変わってしまったから、今年は友達と電車で隣町にある大型ショッピングモールへ行って、そこで買う予定もある。




それをお母さんに言うのはさすがに可哀想で、私は未だに言えてない。今年もきっと言えず、家を出るときはマフラーをし、登校中にそれを外すんだろうと思う。




「そういえば、万智。あんた昨日、長我部さんの家に行ってたでしょ?」




私はちょうど冷蔵庫から牛乳を取り出すところで、危うく落としそうになるくらい驚いた。




「長我部くんから電話があってねー、久しぶりだからびっくりしちゃった。あんたが何を調べているのかわからないけどね、これだけは言っておくわ____