< 忘れられるはずがない >



「俺のこと、忘れちゃってた?」

「そんなこと、ある訳ないじゃん。」

「なら、良かった。」

「当たり前でしょ。」


6年近く前にケンカ別れをしたはずの恋人と、向かい合ってコーヒーを飲んでいることがまだ信じられない。

しかも、あんな最低なサヨナラだったのに、私にとても好意的な態度を見せる元カレが。


「会いたかった。」

「ホントに?」

「って言うか、もう二度と会えないかもしれないって思ってたから、何かまだ夢見てるみたい。」

「それは私もそうだけど.......。」


はにかんだ笑顔には少年っぽさを残していて、当時の面影を感じる。

だけど、骨格が男っぽく変わったせいなのか、右目の下にある泣きぼくろが妙にセクシーに見える。


加えて、アタフタするしかできない私に対してこの余裕だ。

子供っぽいことばかりして私を呆れさせていたあの頃とは明らかに違う大人感を醸しているから、調子が狂うし、目を合わされると何だかドギマギしてしまう。


「ねぇ、匡史は最後に会った時のこと、覚えてる?」

「もちろん。」

「私のこと、怒ってないの?」

「怒るも何も、あれは結局、誤解だろ。元はと言えば俺が悪いんだし、その後、どっちも素直になれなかったから、離れ離れになっちゃった訳でしょ。正直、後悔しかないし、いつかお前に会えたら謝ろうって、ずっと思ってた。」