「お疲れっす。」

「おっ、須賀くんじゃ〜ん。」

「研修、順調?」

「うん、まあまあかな。」


確かに二人は仲が良さそうだ。

取り引き先って言うより友達みたい。

だけど、今、聞こえて来た何気ない会話で、この人が私の知っている「向井くん」であることが、揺るぎない事実に変わった。


「今日は、新店の担当者を連れて挨拶に参りました。」

「あ、そうだよね。女の子なん.........でしょ..........?」


一瞬、時間が止まった。

心臓がトクンと音を立てた。

今の言い方で、「向井くん」が私に気付いたのがわかった。


須賀くんの後ろに隠れるように立っている私に、「向井くん」の視線が注がれている。

止めてよ。見ないで。

どうしたらいいかわからないじゃない..........


でも、何か言わなくちゃ。

ダメだよ。

黙ってたら、須賀くんに怪しまれる。


「.......あおい?」

「..........うん。」

「え、マジ!? 嘘だろ!?」

「久しぶり.......。」


ちょっぴりハスキーでやんちゃな感じの残る声の主は、やっぱりこいつだった。

興奮すると大声になっちゃうところも、あの頃のままだ。


恐る恐る視線を上げると、嬉しそうに微笑む懐かしい笑顔と目が合った。

全然、変わってない。

これは私が大好きだった笑顔だ。

そこには誰よりも愛していた、かつての恋人が立っていた。