君を選んだから

手を握られた状態で、ほんの数センチの位置に須賀くんが立っている。

その事実だけで、こんなにも胸が高鳴る。

自分から差し出したくせしてちょっぴり照れ臭そうな顔をするから、手を離す須賀くんに、さらにキュンとしてしまう。


近くにいても、会社の中でこういう類のトキメキに出会うことは滅多にない。

今日一日で、どれくらいのキュンキュンをチャージできたんだろう。


この後、階段を降りる時にも、須賀くんの首筋に二つ並んだホクロを見つけてドキっとした。

ワイシャツを着ていたら見えないパーツだし、こんなセクシーな所に二連のホクロがあるのは知らなかった。

好きな人のことは何でも知りたいから、小さな発見の一つ一つがとても嬉しい。


でも、一番知りたかったことに関しては悩みが増えた。

もどかしいけど、須賀くんの気持ちが落ち着くまでは、あんまり聞かない方がいいんだろうな。


だけど、叶わない恋だって言ってたから、一番近くにいれば誰かに盗られる心配はないんだよね。

ならば、そうするしかないし、その恋に進展がないことを望むばかりだ。


だって、誰にも譲りたくないし、それ以上に、話を聞く限り、とても幸せになれそうな恋だとは思えない。

想像するに、単に相手が無理めの高嶺の花だからとかじゃなく、貫き通せば誰かを傷つけるとか裏切るとか、決して前向きな恋ではないような気がする。