君を選んだから

場所は聞いていたけど、もちろん中に入るのは初めてだ。

いくら元カレとは言え、男の子の一人暮らしの部屋に入るのは、やっぱり少し緊張する。


具合も悪いことだし、ちょっと様子を見たらすぐ帰ろう。

大丈夫ってわかれば、それだけで安心できるし。


ドキドキしながらチャイムを押すと、中から「あおい?」と声がした。

開いたドアから見えた顔は、決して血色が良いとは言えない。


だけど、私の顔を見て、すごく嬉しそうに笑ったからホっとした。

どうやら動けなくなるような重症ではないみたいだ。


「ありがとう。来てくれて。」

「大丈夫なの? 熱は?」

「昨日から死んだみたいに眠ってたら、何か下がったみたい。」

「ホント?良かった。」

「てか、あおいが来てくれるって言うから、それだけで治った。」

「そんな訳ないでしょ。」

「そんな訳あるの。いいから、入って。」

「うん。」


匡史は昔から、男の子の割には部屋をきれいに片付けていた印象がある。

相変わらず、うちより整理されてるんじゃないかと思うような部屋だけど、それより何より全体的にモノが少ない気がする。


忙し過ぎて、あんまり買い物に行く気も起きないのかな。

出世が早かった分、思わぬ激務になっちゃってるみたいだし。

それでも頑張ってる姿はカッコ良いけど、いろいろと心配になる。