君を選んだから

でも、売り場の中で誰かがそばにいる時に、「あおい」って呼ばれたかな?

そんな記憶、あんまりないな。

ってことは、バックヤードかどっか?

だけど、それだって、二人きりでいる時だよね?


うっわぁ、怖っ!?

これじゃ、どこで誰に聞かれてるかわからないじゃん。

なのに、いきなり抱きつくとか、絶対、ダメだよ。

見られたら、大変なことになる。


「よぉ。」

「こんにちは。いつもお世話になっております。七星堂販売です。」

「なんで、その口調?」

「だって、事務所で、彼女さんですかって聞かれたから。」

「ははははは........。マジ? 『はい』って言っちゃえば良かったじゃん。」

「冗談やめてよ。この後、困るでしょうが。」

「こういうのって、もし本当に本当でも、隠すべきなのかな?」

「えっ? ..........あぁ、どうかな。良くは思わない人もいるから、何とも。」

「だよな。ホント、面倒くせーよな。」


またそうやって、真顔でドキっとするようなことを言う。

気持ちは嬉しいし、今の匡史は高校生の時より魅力的だと思うよ。

だけど、須賀くんへの想いは、そう簡単には変えられないから。


「お前って、水色似合うよね。好きな色だから丁度いいじゃん。」

「あぁ、これ?」

「俺、あおいイコール淡い水色のイメージある。」

「淡い水色? .......あっ、だからぁ、売り場で『あおい』はダメ!!」

「だったら『お前』も一緒じゃん。面倒だから、どうでもよくない?」