君を選んだから

その次の週、匡史に会いに行くのにとても緊張した。

これは仕事、これは仕事、と軽自動車の巡回車を運転しながら、一生懸命自分に暗示をかけた。


駐車場で、背中に北斗七星マークの入った営業用の水色のジャンパーを羽織れば、さあ、準備は万端。

これでどっから見ても、私は七星堂販売のルートセールスのお姉さん。

これから元カレの匡史じゃなく、売り場責任者の向井チーフとお話をしに行くのよ。


しかし、そんな心の準備が、受け付けで早くも崩れ去った。

入店証をもらうために入店名簿に名前を書いていると、それを覗きこんでいた事務所の女の子が嬉しそうに声をあげた。


「あ、本当に『あおいちゃん』なんですね?」

「え? あ、はい。」

「パートさんたちが言ってたんです。向井チーフが、『あおい』って呼んでるって。」

「へっ!? あ、あぁ、そうかも.......。」

「仲が良いって評判なんですけど、やっぱり彼女さんとかなんですか?」

「えっ? いや、違いますよ〜!!」

「そうなんですか? 」

「こ、高校の時の同級生なんです。その時から仲が良かったんで。」

「あぁ、なるほどぉ。でも、残念。」


この子、まだ幼い感じもするから、ハタチくらいなのかな?

事務所の社員がいきなり取り引き先にそんなこと聞いちゃダメでしょう!!


まだ事務所までしか入ってないのに、無駄にドキドキしちゃったじゃん。

これじゃ売り場に辿り着くまで、心臓が持たないよ。