君を選んだから

そうか、彼女は嬉しいんだ。

俺が兄貴の弟で。

やっぱり俺は、彼女の弟にしかなれないんだな..........


悲しい過ぎると涙が出ないっていうのは本当らしい。

胸が痛くてたまらないのに、何故か涙が出て来ない。

彼女の前で泣かずに済むのは、とてもとても助かるけど。


正確には、驚きが大き過ぎて、理解し切れてないというか、感情が付いて行けてないというか、とにかく心が空洞になっちゃってる、みたいな?

そんな俺の心を知ってか知らずか、彼女がとても幸せそうに微笑んでいることに、どうしても戸惑いを隠せない。


でも、笑わなきゃ。

ここで俺が少しでも負の感情を見せたら、彼女が悲しむ。

彼女が選んだのは他でもない俺の兄貴なんだから、どんなに辛くてもここで逃げることは許されないんだ。


「私ね、郁海くんが弟だって聞いて、ますますこの人と付き合って良かったなって思ったの。郁海くんみたいなカワイイ弟がいたらいいのにって、前から思ってたから。」

「そう.......なんですか? 俺も陽奈さんみたいなお姉さんがほしかったから、そう言ってもらえて嬉しいな。」

「ホントに?」

「ホント。兄貴って、研究に夢中になると他のことが見えなくなっちゃうから、没頭して寂しい思いさせちゃうこともあるかもしれないけど、よろしくお願いします。」

「やっぱりそうなんだ。でも、そういうところがいいなって思ったから。」