君を選んだから

そうか、お兄さんの奥さんって、須賀くんの知り合いだったんだ。

それじゃあ、逃げてばっかりって訳にもいかないよね。

確かに難しい立場だわ。


要するに、一人で浮いちゃうのを回避するために私は呼ばれたって訳ね。

なるほど。だいぶ事情が飲み込めた。

それなら、一肌脱いであげようじゃないですか。

須賀くんのお役に立てるのなら。


「ただいま。」

「あ、郁海?、おかえり~!!」


須賀くんがドアを開けると広くてキレイに整頓された玄関が現れ、中から張りのある弾んだ声が聞こえた。

もしかして、これがお母さんの声?

覚語を決めたはずが、そう思うと緊張し過ぎてクラクラする。


思わず息を深く吸い込んだら、背中に須賀くんの手が触れた。

その手にビクッとして右隣をチラ見したけど、須賀くんは涼しい顔をしている。


普段ならこんなことはしないのに、自然に手が伸びて来たのは私がニセ彼女だから?

そう思うとすごくドキドキするし、緊張しているのを察するように背中を支えてくれる手に優しさを感じる。

須賀くんの思いやりが感じられて嬉しい。


そうよ。ニセでも何でも、今日一日は彼女なんだよね。

だったら、この調子で須賀くんに甘えて、今日はたっぷり彼女気分を満喫しちゃおう。