君を選んだから

「入って。」

「う、うん。」

「マジで大丈夫だから、適当に俺に合わせといて。」

「わかった.......。あ、でも、その前に一つ聞いていい?」

「何?」

「どうして今日はニセの彼女が必要なの?」

「え?」

「だって、それがわかんないと上手く演技できないかもしれないから。」


口から心臓が出てきそうな緊張を和らげるために、中に入る前に、思い切って聞いてみた。

全面的に協力するんだから、このくらいは聞く権利があるはず。

って言うか、やっぱりこれだけは聞いておかないと、何か都合の悪いことを言っちゃいそうだし.......


「あぁ、うん。そうだなぁ。簡単に言っちゃうと、いつまでも彼女いないとか言ってると家族が心配するから。あと、兄貴も奥さん連れてく来るから、俺にも話相手がいた方が場が持つじゃん。」

「ふ~ん.......。」

「納得行かない?」

「そうじゃないけど。」

「兄貴の奥さん、いい人でさ、家族に好かれてるの。みんなでチヤホヤするのは構わないんだけど、そうなると俺はどう振る舞ったらいいかわかんないっていうか、立ち位置よくわかんないっていうか。逃げちゃえばいいのかもしれないけど、それで気を使われるのもイヤだし。」

「なるほど。」

「それからさ、実は兄貴の奥さん、俺の大学の時のバイトの先輩なんだ。これで俺の微妙な立場わかってくれる?」

「そうなの?」