髪をバスタオルで拭きながら自分の部屋に入る。
しばらくすると、碧生くんが抹茶のアイス最中を持ってきてくれた。
「風呂上がりにちょうどいいんじゃない?」

「ありがとう、いただきます。」
大好きなアイス最中なのに、味がよくわからない。

無言で食べていると、碧生くんは私の髪をタオルで拭いてくれた。
ふわふわと優しく頭皮マッサージされてる気分。

「ごめん。」
頭の上で碧生くんがそう言った。

「どうして?」
謝られる意味がわからない。
私のほうが謝らなきゃいけないのに。

「気まずい想いさせて。無理かもしれないけど、俺のことは気にしなくていいから。」
碧生くんの声には、嫌味も毒も含まれてなかった。

優しすぎるよ、碧生くん。
涙がこぼれる。

「ごめんなさい。」
謝らずにはいられなかった。

「百合子は悪くない。俺が、ちゃんと、見えてなかっただけ。気づいたら後の祭りなんだよな、いつも。」
演技してるかのように肩をすくめて見せて、ため息まじりに碧生くんはそう言ったけれど、その目は泣いてるように見えた。

碧生くんはブラシを手に取ると、私の背後にまわり、髪をとかしてくれた。

「俺、麻雀で緑一色(リューイーソー)をしたことあるんだけどね」
「りゅーいーそー?アメリカから逆輸入された役(やく)って言ってた?」
「うん、それ。すごく難しくて、上がれる確率は、0.0011%なんだって。87万回に1回とか。」
「宝くじみたい。それが、できたの?」

「できた。でも気づかなかったんだ。点数にして、10分の1ぐらいの、発(はつ)と混一色(ほんいつ)と勘違いして上がってね。幻の緑一色になってしまった。」

「そういうのって、誰も教えてくれないの?」
「遊びでも、本気だからね。」

ふわりと、背後から抱きしめられた。
壊れ物を扱うように、そっと。

「ごめん。」

碧生くんの声が震えていた。

私は、何も言えず黙って泣いていた。
確かに、この人を大切に想ってるのに。
こうしてずっと一緒にいたいと思ってるのに。

どうして、泉さんと、こんなことになってしまったのだろう。




「あれ?なんか皮膚が」
碧生くんは、私の顔にお薬を縫ってくれながら首をかしげた。

「なぁに?」
「うんなんだか、垢のように皮膚がボロボロ剥がせるみたい。」

ええ!?

「もう皮膚が再生してるってこと?ステロイド、怖い」

思わず自分の頬に触れようと手を挙げる。
自然と、碧生くんの手と重なった。

時が止まる。

視線が絡み合い、鼓動が激しくなる。

碧生くんは、優しく微笑みかけてくれた。
「これなら、すぐに綺麗な百合子に戻るよ。よかった。それはそれで心配だけど。」

胸に小さな痛みが走った。