今、鐘が鳴る

「日本ではしてないな。L.A.ではよくやったよ。チャイニーズ系の友達も多かったし。」

へえ!
「中国人と麻雀するの?何だかレベル高そう。」

碧生くんは首をかしげた。
「そう?ゲームはゲームだよ。俺、小さい時から頭脳系ゲームが好きで、特に囲碁と将棋は大会にも出てて自信もあったんだけどさ、麻雀ではボロ負けすることも多くてね。イカサマもよくされたし、まあ、いい勉強になったと思ってるよ。」

イカサマ?
眉をひそめた私に、碧生くんは笑って見せた。

「知ってる?麻雀は確かに中国発祥のゲームだけど、アメリカで作られた役(やく)もグローバルスタンダードなんだよ。七対子(チートイツ)とか、緑一色(リユーイーソー)とか、南北戦争とか。」

「役も、逆輸入するのね。」
碧生くんの話は、国という単位で区別しにくい気がする。
これが、インターナショナルということなのだろうか。

私はたぶん日本人の中でも保守的なほうだから、感覚の違いは顕著なのだけど、とてもおもしろいと思う。
碧生くんが軽やかに異文化コミュニケーションをやってのけてることには、ただただ感心するばかり。
いろんなことに興味を抱いて、勉強して、チャレンジして、楽しんでるのって、すごいと思う。

「碧生くんといると、楽しいだけじゃなくて、私の世界も広がるみたい。」
事実、私自身の卒論の方向性も見えてきたし。

琵琶湖の湖岸道路をぐるりと周りながらの帰り道、そう言ってみた。
キラキラの湖面が眩しいらしく、碧生くんはサングラスをかけていた。
細いフレームの黒いレイバン、ティアドロップ。

チャラい、いかついサングラスだけど、芸能人じゃなくてダグラス・マッカーサーが好きなのかしら?と勘ぐってしまう。

「俺も。自分にこんな感情もあったんだ、って、毎回驚かされてる。」
意味深な言葉が気になったけど、サングラスのせいで碧生くんがどんな目をしてたのが見えなかった。




数日後、宝ヶ池にボートに乗りに行った。
ガチョウと戯れたり、野良猫やお散歩中の犬が尻尾を振って駆け寄ってきたり、池をぐるっと歩いてまわるだけでも楽しかったけれど、やはり水上は格別。
水面を渡る風が心地よくて、太陽がさんさんと降り注ぎ、頭がボーッとしてくる。

碧生くんは持参したレジャーシートをボートの真ん中に敷いて寝転がった。
「おいでよ。」
気持ちよさそうなので、私もバランスを崩さないようにソロソロと移動して床底に座ってみた。

水面のキラキラが眩しくて目を閉じる。
あ、なんだか、このまま寝てしまいそう。

碧生くんのすぐ横に同じように寝そべってみた。

そうして波間を漂っていると、太陽と揺れが気持ちよくって本当に少し眠ってしまっていたようだった。