翌朝、私たちはすっかり寝過ごした。
10時前に電話の着信音で目覚める。

「はい。百合子です。」
『寝てた?ごめんごめん。水島です。これから帰るねんけど、百合子ちゃんとお友達?一緒に乗ってかへん?大きい車で来てるから、ゆったり帰れるで?』
「え~と、ちょっと待ってくださいね。あ、由未さん、起きたのね。水島くんが、車に乗って帰るか、って。」

由未さんはぼや~っとした顔で起き上がったけれど、水島くんの名前に反応した。
「行く!乗る!お願いします!」
「もしもし?水島くん?お世話になります、よろしくお願いします。」

たぶん夕べの話水島くんが私に気があるのか確認したいんだろうな。
『あ、よかった。ほな、ホテルに迎えに行くわ。』

電話を切ってから、私たちは慌てて身支度を整えてチェックアウトをした。
由未さんはホテルの人にお遣いを頼んでいたらしく、フロントで紙袋を受け取った。

「なぁに?」
「ます寿司。せっかく来たから、美味しいところのを昨日お願いしといてん。朝食、食べ損ねたからちょうどよかったねえ。車で食べよ。」
少し外へ出て自動販売機でお茶を買っていると、大きな黒いエルグランドがホテルに入ってきた。
後方の窓にフィルムまで張ってあり、ちょっといかつく見えた。

「おはよう。ドリンク、俺も買ったで。」
水島くんが爽やかな笑顔でそう言った。
「ありがとう。私たち、これから朝食なの。ます寿司。由未さ~ん。来られたわよ~。」
「おはようございま~す。今日はお世話になります。水島くん?」
「よろしく。いや、それより、遠くまですみませんでした。乗ってください。」
そう促されて由未さんから車に乗り込む。

「お邪魔しまー」
由未さんの声も身体も固まってしまった。

「由未さん?」
「なに?早よ入りーな。」
中から聞こえてきたこの声……え?

恐る恐る由未さんごしに車内を覗き込んだ。
一番後ろのシートに、泉さんがドッカと座っていた。

ええええ!?
泉さんも一緒なの?

いや、確かに冷静に考えたら、水島くんは泉さんを迎えに来たんだろうけど

「お体、大丈夫ですか?」
由未さんは泉さんにそう言いながら運転席のすぐ後ろのシートに座って、荷物をわざわざ自分の横に置いた!

私に、泉さんの隣に座れってこと?
わなわなと身体に震えが走る。

「たいしたことないわ。自分、誰?百合子の妹?」
泉さんは由未さんにそう言った!
確かにほぼ正解なんだけど、私も由未さんも驚いて顔を見合わせた。

「そんなようなものです。親戚。似てますか?」
由未さんは完全に後ろを向いて、泉さんを観察していた。

「百合子のほうが美人やけど、自分のほうが愛嬌あってかわいいな。でも今日、2人とも不細工やで。目ぇバンバン腫れてるやん。」

遠慮のない泉さんに、由未さんは負けてなかった。

「泉さんが心配で2人で泣き明かしたんですよ!」

泉さんは、鼻で笑った。