変な顔をしていた由未さんを見て、自分が言いすぎたことに気づいた。
しまった……。
由未さんは、たぶん自覚していないだろう。

私は慌てて言った。
「私もね、不毛なことはわかってるの。全然世界が違うし、感性もたぶん趣味や嗜好も違うし、合うわけないのよね。例え奥さまと離婚されたとしても、私には関係ないと思うし。……なのにどうしてこんなに心配で苦しいのかしら……」

どれだけ否定しても、最後には戻ってきてしまう。
泉さんの強烈な吸引力に敵わない。

「……何か切ないねえ。百合子さんが幸せやったら、略奪愛でも不倫でも応援するけど……違うねんね……」
由未さんはしんみりそう言った。

「うん……応援されたら……困る。できたら、止めてほしい。理性ではわかってるから。ダメって。どうしようもないって。」
強がりじゃなくて、紛れもない本音だった。

涙がこみ上げてきた。
由未さんは赤ワインをグラスについでくれた。

「……よく知らんねんけど、競輪選手なん?碧生くんのお友達?……そんなにしんどい人なん?」
え?
聞いてないのかな?

「いいえ。水島くんはちょっと軽いけどいい人だと思うわ。……泉さんは、水島くんの師匠で……宇宙人。よくわからないの。」
だいぶんろれつの怪しくなっていることを自覚しながらそう説明した。

由未さんは、ん~?と唸りながら首をかしげるように身体を90度傾けた。
「水島が百合子ちゃんにマジかもってぼやいてたでぇ?碧生くん。」

私は由未さんに釣られるように、身体を倒した。
「ん~?……そういえば初対面の時にそんなことも言ってたけど、それっきりよ?」

水島くんは、碧生くんが私を好きなことも、私が泉さんを好きなこともわかっているはず。
今さら、私に懸想するとは思えない。

「ん~ん~ん~……。なんかめっちゃ危険な気がするぅ。」
由未さんはそう言ってゴロンゴロン転がっていたけれど、しばらくすると動かなくなった。
眠ってしまったらしい。

……大丈夫かしら。
エアコンはちょうどいいけど、風邪引かないかしら。

とりあえず、お水を飲んで、室内灯を消して……

身体が動かなくなり、意識が薄れ、私もそのまま寝落ちしていた。

……2人で日本酒720mlとワイン2本を飲み干して。