「でも……私、趣味が悪いのね、たぶん。悪い人、危険な人、私が想う半分も気持ちを返してくれないような人ばかり執着して追いかけてしまうみたい。あきらめが悪いというか……馬鹿よね。」

「あ~~~~~!ごめんっ!」
由未さんはワインを一気に飲んでしまってから、そう言って頭を下げた。
「お兄ちゃんが悪いねんっ!無神経に色気と優しさ振りまき過ぎやっちゅうねん!うちら、被害者やと思わん?あれ以上にイイ男なんかいるかっちゅうねん。ねえ!?」

……。

私は心底驚いた。
由未さんがそんな風に言うなんて思ってもみなかった。
今の言葉から類推すると、由未さんも……義人さんの色香にあてられてきたの?

「……由未さんと、もっと早くお話しすればよかったわ……」
しみじみとそう言ってから、私は手酌でワインをつぎ足した。

頭の先から両手両足の爪先までアルコールが回ってる。
気持ちよくてふわふわしていて、つらかった長い初恋までもが美しく楽しいものに感じてきた。

「うれしい~。私も~。仲良くなりたかってん。」
由未さんの目がうるうるしている。
私の視界もぼやけてきた。

すっかり酔っ払った私たちは、ヒシと抱き合って泣きじゃくった。
……どんなに2人が歩み寄ろうと努力をしていても、しらふでは絶対にこんな風にはならなかっただろう。

お酒の力って、偉大だわ。

積年のしこりと壁がやっと瓦解した気がした。


「希和子ちゃん、覚えてる?」
私から離れて、鼻をすすりながら由未さんが言った。

「……竹原家が養女に迎えたお嬢さんよね?」
由未さんはうなずいて、ため息をついた。

「今は希和子ちゃんが心配。あのお兄ちゃんが付きっきりで可愛がってベタベタに甘やかしてるねんで。絶対他の男に目ぇ行くわけないやん?ひどいと思わん?」
……胸の奥に小さな痛みを覚えた。

「それって、最初からそのつもりなんでしょうよ。義人さん、その子を自分だけのものにする気なんでしょ。」
さらっと言ったつもりだけど、私は憮然としてたようだ。

由未さんは首をかしげた。
「……まあ、ちゃんと希和子ちゃんの人生に責任取る気ぃならいいけど……いいんかなあ……」

私は白ワインを1杯煽ってから、今度こそすまして言った。
「いいんじゃない?いつまでも禁忌(タブー)な関係にしか本気になれないままじゃ不毛だもの。養女なら籍を抜けば済むんでしょ?……ちゃんと、幸せになってもらいたいわ。」