「……奥様、いらっしゃるんですよね?」
ICUの前で、手を消毒しながら水島くんに確認した。
「いや……帰らはった。」
え?
「あ。じゃあ、泉さん、意識戻られたんですか?」
安心して、荷物でも取りに一旦帰られたのかしら。
でも水島くんは陰鬱な顔で首を横に振った。
「百合子ちゃんのせいじゃないから……」
そう前置きしてから、水島くんはさらりと言った。
「夫婦仲うまくいってないんだ、もともと。奥さん、気が強くて衝突が絶えなくて。……怒って帰っちゃった。」
……そんな……。
足がすくむ。
動かない。
確かに、私のせいではないと思う。
思うけれども、そんな状態で、今、私はここにいていいのだろうか。
どうしよう……。
急に中が騒がしくなった。
看護師さんが医師を呼ぶ声がする。
「泉さん!大丈夫ですか!?泉さん!」
水島くんが慌ててICUの中に入った。
私も小走りでついていく。
広い部屋にいくつも並んだベッドと機械。
少し奥のベッドに泉さんがいた。
青白い、血の気のない顔に酸素の透明なマスク。
頭には包帯がぐるぐる巻き。
いくつものコードがと管が身体中に繋がれている。
「……泉さん!わかりますか?泉さん!」
これまで意識がなかった泉さんにようやく反応があったようだ。
「師匠!百合子ちゃんです!目ぇ開けてくださいっ!」
水島くんが涙ながらにそう呼びかけて、私を泉さんの枕元に引き寄せた。
「百合子ちゃん、声かけたげて。」
そう言われても、私には何て言ったらいいのかわからなくて……恐る恐る、泉さんの手に触れた。
この手……指の長い、筋張ったこの手が……好き……。
涙がポタポタとこぼれ落ちる。
「死なないで……」
私がそうつぶやくのと同時だった。
泉さんが目を開けた。
「師匠っ!」
水島くんが絶叫した。
「……泣くな。あほか。」
泉さんは、水島くんに言ったのか、私に言ったのか。
一瞬柔らかい目で見られた、気がした。
でも、泉さんは、うっ……と呻いて、顔をしかめた。
看護師さんたちがバタバタと動き回る。
私たちは、泉さんから引きはがされて、少し離れたところから見ていた。
ジャージで声をあげて泣きじゃくる水島くんと、着物で静かにポロポロ涙を流し続けた私は対照的だったらしく、後から処置してくださった医師に笑われた。
ICUの前で、手を消毒しながら水島くんに確認した。
「いや……帰らはった。」
え?
「あ。じゃあ、泉さん、意識戻られたんですか?」
安心して、荷物でも取りに一旦帰られたのかしら。
でも水島くんは陰鬱な顔で首を横に振った。
「百合子ちゃんのせいじゃないから……」
そう前置きしてから、水島くんはさらりと言った。
「夫婦仲うまくいってないんだ、もともと。奥さん、気が強くて衝突が絶えなくて。……怒って帰っちゃった。」
……そんな……。
足がすくむ。
動かない。
確かに、私のせいではないと思う。
思うけれども、そんな状態で、今、私はここにいていいのだろうか。
どうしよう……。
急に中が騒がしくなった。
看護師さんが医師を呼ぶ声がする。
「泉さん!大丈夫ですか!?泉さん!」
水島くんが慌ててICUの中に入った。
私も小走りでついていく。
広い部屋にいくつも並んだベッドと機械。
少し奥のベッドに泉さんがいた。
青白い、血の気のない顔に酸素の透明なマスク。
頭には包帯がぐるぐる巻き。
いくつものコードがと管が身体中に繋がれている。
「……泉さん!わかりますか?泉さん!」
これまで意識がなかった泉さんにようやく反応があったようだ。
「師匠!百合子ちゃんです!目ぇ開けてくださいっ!」
水島くんが涙ながらにそう呼びかけて、私を泉さんの枕元に引き寄せた。
「百合子ちゃん、声かけたげて。」
そう言われても、私には何て言ったらいいのかわからなくて……恐る恐る、泉さんの手に触れた。
この手……指の長い、筋張ったこの手が……好き……。
涙がポタポタとこぼれ落ちる。
「死なないで……」
私がそうつぶやくのと同時だった。
泉さんが目を開けた。
「師匠っ!」
水島くんが絶叫した。
「……泣くな。あほか。」
泉さんは、水島くんに言ったのか、私に言ったのか。
一瞬柔らかい目で見られた、気がした。
でも、泉さんは、うっ……と呻いて、顔をしかめた。
看護師さんたちがバタバタと動き回る。
私たちは、泉さんから引きはがされて、少し離れたところから見ていた。
ジャージで声をあげて泣きじゃくる水島くんと、着物で静かにポロポロ涙を流し続けた私は対照的だったらしく、後から処置してくださった医師に笑われた。



