今、鐘が鳴る

「百合子さん?顔、真っ青やけど、大丈夫?」
由未さんにそう聞かれて、私はやっと我に返った。
「友人が……事故で、意識が戻らないそうです。……私……。」

声も体も震えてきた。
どうしよう。
泉さん、死んじゃうの?

「大変!早く行かないと!どこの病院!?」
由未さんにそう言われて、私は首を振った。
「わからないわ……今日、どこだったかしら……ええと……」

スマホを操作しようとするけど、指が震えてうまく動かない。
力が入らず、落としてしまった。

「貸して!」
由未さんが私のスマホを拾い上げて、操作する。

着信履歴から水島くんに電話をかけたらしい。
「もしもし?私、橘百合子の友達ですけど、病院どこですか!?すぐに百合子さんを送り届けます!」
……余計な会話も詮索もせず、由未さんは水島くんから泉さんの場所を聞き出してくれた。

「富山!車よりサンダーバードのほうが早いし、行こう!」
由未さんに手を引かれ、私はタクシーで京都駅へと移動した。

車中、由未さんはスマホで時刻表と到着時刻を調べたようだ。
「たぶんこれからじゃ往復は無理やと思う。富山にホテル取るで?私も一緒に行くから。……大丈夫やから、泣かんといて。信じよう。」

そう言って由未さんは私の肩を抱くように支えてくれた。
由未さんに言われて、私ははじめて自分が泣いていることに気づいた。
両方の瞳から滝のように涙が滂沱してるのに、まばたきもできず、ただ目を見開いていた。



京都駅からすぐにサンダーバードに飛び乗った。
電車が富山駅に到着したのは20時前。
タクシーで由未さんが病院まで送ってくれた。

「じゃ、私はホテルにチェックインして、橘のおばさまにお電話しとくから。恭(きょう)兄さまが既におばさまに連絡入れてごまかしてくれてるから、安心してお友達に付いてあげてて。」
私はタクシーに乗ったままの由未さんの手を握った。

「ありがとう……」
由未さんは、ちょっと微笑んだけど、すぐに表情を引き締めた。
「いいから、早く行って!あとで連絡ちょうだいね。」

病院に入ったところで水島くんが待ってくれていた。
「ごめん!こんなとこまで!でも師匠、奥さんが呼びかけても、百合子ちゃんをうわごとで呼んでて。娘さんも、過去の奥さんたちの名前も出ないのに。」

……特別、自分が執着されてるとは思えない。
逆に、私が距離を置いてるから、惜しくなったのか、挑まれているのかもしれない。

私はそんな風に考えながら、廊下を急いだ。