その夜、碧生くんと2人で祇園祭に繰り出した。
と言っても、後の祭りなので、屋台もなければ、鉾も人も少ない。
母が誂えてくれていた浴衣で2人でそぞろ歩く。
「……百合子、不機嫌?」
碧生くんは、私がいつまでも仏頂面で口数少ないことに、いたたまれないらしい。
「……そうですね。」
不機嫌にもなるわ。
私の気持ちを完全に無視して、不愉快極まりないお金の話ばかり。
意味がわからない。
結婚ってそういうものなの?
好きな人と、全てを共有するものじゃないの?
「常識の違いなのでしょうね。アメリカは、契約と訴訟が日常茶飯事なんでしょうね。」
「日本でも、財産がある家では普通のことなんだと思ってたよ。俺が思ってた以上にまずかったんだね……」
碧生くんはしょんぼりしていたけれど、私の機嫌は直らなかった。
だって!
プロポーズしてもらってないし!
……一番の不愉快はソレなのだが、碧生くんらしくないというか……どうして、失念しちゃってるの
だろう。
おねだりするのも口惜しいので、私は言いたいことを飲み込んで、口をつぐんだ。
いつの間にかまた敬語になっていたことに気づいたけれど、碧生くんも指摘もしなかった。
結局、ギクシャクしたまま2日間を過ごして、碧生くんは東京へと帰って行った。
日課だったスカイプもメールも、言葉が上滑りしてよそよそしくなる。
完全に私は、心をこじらせてしまったようだ。
碧生くんはアメリカからも連絡をくれてたけれど、時差を理由に私は避けるようになった。
ご両親やお兄さんと相談した、とか、弁護士に書面を作ってもらう、とか……正直、どうでもよかった。
人間関係って難しい。
碧生くんのことを好きになれば幸せになれると思っていたのに。
どうしてすれ違ってしまったのかしら。
碧生くんが真剣に私との将来を考えてくれたのに……育った環境と常識が違うって、思った以上に大変なのかもしれない。
お盆に恭匡さんと由未さんが京都に帰ってきた。
貴船の川床で会食したけれど、碧生くんの話題になると私の心が乾燥してひび割れていくような気がした。
でも母は、恭匡さんから根掘り葉掘り碧生くんのお家の情報を聞き出した。
裕福なお家で育ったのだろうとは思っていたけれど……碧生くんのお家は少し特殊なようだ。
幕府の儒学者の家系で、ひいおじいさんが明治になるとアメリカへ官費留学。
その息子、つまりおじいさまは成人してから日本に帰国して武器の開発に携わり、陸軍大臣の姪と結婚して、男爵位を授けられたらしい。
戦後は米軍に協力することで戦犯を逃れ、そのまま米国へ移住。
碧生くんのお父さまは日系2世で、日本には旅行でしか来たことがないそうだ。
お父さまは企業と大学を行ったり来たりしている生物学者、お母さまは臨床脳外科医。
お兄さんも自然科学系の科学者への道を順調に歩んでいるらしい。
と言っても、後の祭りなので、屋台もなければ、鉾も人も少ない。
母が誂えてくれていた浴衣で2人でそぞろ歩く。
「……百合子、不機嫌?」
碧生くんは、私がいつまでも仏頂面で口数少ないことに、いたたまれないらしい。
「……そうですね。」
不機嫌にもなるわ。
私の気持ちを完全に無視して、不愉快極まりないお金の話ばかり。
意味がわからない。
結婚ってそういうものなの?
好きな人と、全てを共有するものじゃないの?
「常識の違いなのでしょうね。アメリカは、契約と訴訟が日常茶飯事なんでしょうね。」
「日本でも、財産がある家では普通のことなんだと思ってたよ。俺が思ってた以上にまずかったんだね……」
碧生くんはしょんぼりしていたけれど、私の機嫌は直らなかった。
だって!
プロポーズしてもらってないし!
……一番の不愉快はソレなのだが、碧生くんらしくないというか……どうして、失念しちゃってるの
だろう。
おねだりするのも口惜しいので、私は言いたいことを飲み込んで、口をつぐんだ。
いつの間にかまた敬語になっていたことに気づいたけれど、碧生くんも指摘もしなかった。
結局、ギクシャクしたまま2日間を過ごして、碧生くんは東京へと帰って行った。
日課だったスカイプもメールも、言葉が上滑りしてよそよそしくなる。
完全に私は、心をこじらせてしまったようだ。
碧生くんはアメリカからも連絡をくれてたけれど、時差を理由に私は避けるようになった。
ご両親やお兄さんと相談した、とか、弁護士に書面を作ってもらう、とか……正直、どうでもよかった。
人間関係って難しい。
碧生くんのことを好きになれば幸せになれると思っていたのに。
どうしてすれ違ってしまったのかしら。
碧生くんが真剣に私との将来を考えてくれたのに……育った環境と常識が違うって、思った以上に大変なのかもしれない。
お盆に恭匡さんと由未さんが京都に帰ってきた。
貴船の川床で会食したけれど、碧生くんの話題になると私の心が乾燥してひび割れていくような気がした。
でも母は、恭匡さんから根掘り葉掘り碧生くんのお家の情報を聞き出した。
裕福なお家で育ったのだろうとは思っていたけれど……碧生くんのお家は少し特殊なようだ。
幕府の儒学者の家系で、ひいおじいさんが明治になるとアメリカへ官費留学。
その息子、つまりおじいさまは成人してから日本に帰国して武器の開発に携わり、陸軍大臣の姪と結婚して、男爵位を授けられたらしい。
戦後は米軍に協力することで戦犯を逃れ、そのまま米国へ移住。
碧生くんのお父さまは日系2世で、日本には旅行でしか来たことがないそうだ。
お父さまは企業と大学を行ったり来たりしている生物学者、お母さまは臨床脳外科医。
お兄さんも自然科学系の科学者への道を順調に歩んでいるらしい。



