今、鐘が鳴る

「アメリカに行く前に、ハッキリさせておこうと思ってね。」
コーヒーを飲み終えてから、碧生くんは床に正座をして両親に向き合った。

まさか……ちょっと……本気!

「学生の身で早いと思われるでしょうが、いずれ百合子さんと結婚させてください。」

両親はあからさまに喜んだ。
「ええ!ええ!別に就職や卒業を待つ必要はありませんわ。ねえ!一夫さん!」
「もちろんや。ほな碧生くんのご両親とも挨拶せんと……なあ?」

盛り上がる2人に碧生くんはうれしそうに笑顔を向けた。
「ありがとうございます。うちの親は反対はしないと思います。ただ、俺が完全に日本に永住するとなると法的に相続についての整理をしなきゃいけないと思うんです。カリフォルニアは共有財産制なので、百合子にも相続の権利が生じますので。結婚の際に契約書にサインをいただくことになると思いますが、どうしても離婚した場合の分与の項目もありますがご容赦ください。」

……結婚する前から離婚時の契約……。
いや、ちょっと待って!
そもそも、私、結婚するって言ってない!
プロポーズもされてないよね?

碧生く~ん?
Hしただけで、どうしてそこまで話が飛躍してるの~?

「すんません、水さすようですけど……碧生くんのお家がどんなけ財産があるのか見当もつかんけど、やっぱりちょっと、気になるわ。離婚前提の結婚ってどうなんや?うちかて、娘は百合子1人やさかい、この子が生涯食うに困らんだけのもんは残せます。金(かね)のことは抜きにして、変な契約なしで普通に一緒になるわけにはいかんか?」

昔人間の義父には、やはり納得いかなかったらしい。
私は、つい、うんうんとうなずいた。

碧生くんは、頭をかいた。
「……そうですか……やっぱり、抵抗ありますか……。やすまっさんに、先にご両親と相談するように言われて来たんですけど……参ったな。」

義父と私とが碧生くんをジトーッと見ているのに対して、母は涼しい顔をしていた。
「よろしいではありませんか。人生、何が起こるかわかりませんわ。離婚どころか、碧生くんが夭折する可能性もありますのよ。私のように、百合子が子供を抱えて1人で生きていく可能性もあるのですから、その時に幾何か分けてもらえるというなら承諾なさいな。」

……さすが、離婚経験者……シビアだわ。
「もちろん、それ相応の額面を提示していただけますのでしょ?碧生くんの百合子に対する想いが如何程か楽しみにしていますわ。結納もないのでしょうから、誠意を見せてくださいね。」

本当にシビア……。

碧生くんはしっかりとうなずいたけれど、その笑顔が少し引きつって見えた。