今、鐘が鳴る

「もうちょっと一緒にいたい……って言ったら、困る?」
恐る恐る聞いてみた。

碧生くんは、そっと私の手を取った。
「いや、すごくうれしい。俺も、一緒にいたい。」

絡み合う視線。
碧生くんの瞳に珍しく情欲を感じた。

……うん。
それもいいかもしれない。

碧生くんにすっかり依存している私にとって、迷いは何もない。
むしろ、碧生くんで満たされたい。

会えなくても、何者も入り込む余地がないほどに、碧生くんでいっぱいにしたい。


お店を出ると、どちらからともなく自然と手をつないだ。
タクシーに乗り込んでも、名古屋駅直結のタワーホテルのエレベーターの中でも、ずっと指を絡めていた。

地上47階。
京都では考えられない天空の塔で、私達は結ばれた。

碧生くんは、私を大事に大事に、壊れ物を扱うように丁寧に愛してくれた。
……安心しきっていたからか、碧生くんが上手いのか、最初から私は翻弄された。

身体が満たされたら心も満足して、おとなしく帰れると思っていた。
でも逆だった。

離れたくない……ずっとそばにいて欲しい……
依存心はますます強くなってしまったようだ。
私のワガママには際限ないのだろうか。

「泊まる?お家に電話、俺がしようか?」
碧生くんも後ろ髪を引かれているのだろう。
甘い未練が伝わってきたことで、私は自分を落ち着けることができた。

「ううん。帰る。本気で碧生くんをアメリカに行かせたくなくなるから。」
するりと碧生くんに抱きついた。

裸で抱き合う、それだけで気持ちよくて……。
帰る、帰ると言いながらも何度も愛し合って……結局、碧生くんは最終の新幹線に駆け込み乗車する羽目に陥った。







「もう当分逢えないと思ってたのに……何でいるの?」

海の日の連休初日の朝、朝食を食べに降りると、しれっとした顔で碧生(あおい)くんがトーストをかじっていた。
「まあ、百合子。ちゃんとご挨拶なさい。夜通し走ってらしたのに。ねえ、碧生くん。召し上がったら少しおやすみなさいね。」
母は知ってたのか……信じらんない!

てか、夕べも普通にスカイプで話したよね?
何も言ってなかったよね?
「……たばかられた。」

「おはよう、百合子。逢いたかったから頑張ってレポートやっつけて時間作って来たのに。ダメだった?」

……ダメなわけない。
もちろん、来てくれてすごくうれしい。

うれしいけど……こうしてまたすぐ逢えるのなら……名古屋でああゆうことにならなかったような気がする。

盛り上がった気持ちを思い出して、何だか恥ずかしくていたたまれない。