「由未さんも、苦労なさいますね……」
母も苦笑していた。

「あ、ちょっと待って。知織-!本-!」
碧生くんがそう叫びながら、模擬店のテントに走って行った。

長い髪の女の子と笑顔で話して、彼女から本を受け取った。
……胸がチクリと痛んだ。
久々に感じる嫉妬の棘だった。

「賢そうなお嬢さん。碧生くんと親しいのかしらね。」
母の声は笑いと私に対するイケズを含んでて、何だか楽しそうだった。
私が焼き餅を焼いたのを見て、おもしろがっているようだ。

「……そうですね。」
私は2人から目をそらし、パンフレットに目を落とした。
「農学部の鰻を食べに行きましょうか。留学生の屋台も本格的で楽しそうですね。」
13時過ぎてお腹もすいてきたので母にそう言ってると、碧生くんが伴ってきた女の子が言った。

「こんにちは。お久しぶりです、覚えてますか?同じ中学だった大村知織です。……残念ですけど、鰻丼売り切れたみたいです。」
ずっと学年トップだった大村知織さんだ。
彼女も東大生だったのか。

「……ごきげんよう。覚えてますわ、由未さんのお友達でしたよね。」
雰囲気が柔らかい……綺麗になったわ、大村さん。

「えー!鰻丼、狙ってたのに。知織、食べた?美味しかった?」
「美味しかったで。今日のほうが競争率高そうやし昨日食べた~。」
大村さんと碧生くんが笑顔で仲よさそうに話している。
それだけで、私の胸はもやもやした。

……まあ、大村さんだけじゃなく、何人もの女の子に碧生くんは声をかけられていたけど。



帰宅した夜、スカイプで碧生くんが嘆いた。
『我慢しなくていいんだよ?気に入らないことがあれば表現してくれないと。俺、ちょっと落ち込んじゃったよ……』

は?
意味がわからない。

「どうして?楽しかったわ。碧生くんのおかげで母もずっとご機嫌で。」
『……うん。お母さんは、ね。でもその分、百合子に手薄になった。失敗。秋の駒場祭は百合子をエスコートしたい。』
「エスコート?」
『そう。今日の反省を踏まえて、逢う人みんなに百合子を恋人!って紹介して回る。』
……何よ、それ。

「恥ずかしいわよ?」
思わず白い目で見てしまったらしく、碧生くんは少しむくれた。

『だって!百合子が!ちゃんとジェラシーを表現してくれないから!』
「……ジェラシーって表現するものなの?そんな見苦しいの、嫌だわ。」
私もムキになっていた。

『ジェラシーは恋のスパイスだと思うけど。』
「必要ありません。」
『……何でそんなに意固地なの?』

碧生くんにそう聞かれて、私はキレた。