だから、碧生くんも、私を待ってくれるって言いたいの?

「もし、どれだけ待っても、目もくれなかったら?虚しくない?」

碧生くんは愛しそうに私を見つめて、髪を撫でてくれた。
「虚しくない。俺の存在が慰めや気晴らしに役立つなら、それでいい。惚れてもらえなくても、それは俺に魅力が足りないだけで、自己責任だろ。」

ひゃ~~~!
声にならない叫び声を心の中であげた。

何、その切ない声と顔。
碧生くん、色気だだ漏れ。
かっこいいんだ……この人。

伊達にチャラいだけじゃないことを、改めて認識した。



碧生(あおい)くんが来て、私の生活は一変した。

朝から晩まで明るい太陽のような笑顔を向けられて、衒(てら)いの無い愛情をたっぷりと注がれる。
いじけた心はあっという間に霧散し、碧生くんのサービス精神と優しさに甘やかされて幸せすら感じてしまう。

私だけじゃなく、家族みんな、毎日が楽しくて笑顔が耐えない。
たった1人加わるだけでこうも世界が変わるのかと、驚くばかりだ。

……暗闇の世界を徘徊していたはずの私も、気づけば、泉さんのことを考える時間が激減していた。
くよくよと堂々巡りしていたのが遠い過去のように思えた。

「碧生くん、京大に入り直す気、ない?碧生くんがそばにいてくれたら、もう闇にとらわれない気がする。」
そんな風に甘えておねだりするぐらい、わずか数日で飼い慣らされてしまった。

「……イロイロ考えたんだけどね、大学はこのまま。でも大学院は京大を受けようと思う。」
「大学院!行くの!?」
「うん。それは最初から確定事項。本当は大学院も東大のつもりだったんだけどね。でもまあ俺の研究のフィールドは京都メインだし、回り道のようでも無駄にはならないはず。」

自分に言い聞かせるように、碧生くんはそう言った。
……私のワガママで進路を変更する気なのか。
ありがとうと言うべきなのか、ごめんなさいと言うべきなのか……。

困っている私に、碧生くんは笑顔で言った。
「そんな顔しないの。百合子の笑顔が見たくて決めたんだから。……うれしい?」
「……うん。」
私のかすかな声を、碧生くんは聞き逃さなかった。

「もういっぺん!聞かせて。俺が京都に来るの、うれしい?」
気恥ずかしいけれど、正直に言った。
「うん。うれしい。」

碧生くんは、ガバーッと抱きついてきた。
「え!これは反則!」
慌てて私はもがいたけれど、
「俺、外国育ちだから、ハグは挨拶みたいなもんだもーん。うれしいからたまにはハグさせて。」
と、本気でうれしそう。

「あの……私は、日本で生まれ育ったので、お友達とこういう風習はないんですけど……碧生くんは、由未さんや、他の大学のお友達にも気軽にスキンシップされるんですか?」

ちょっと気になったので聞いてみた。