……これまでの人生で告白されたことがないわけではないけれど、いつもすぐに断ってきたから……この曖昧な関係がとても居心地悪い。
私がいつまでも後味の悪い初恋を引きずって、次の恋愛に踏み切れないせいかもしれないけれど。


「雪、地面には積もってないんですね。」
碧生くんの運転する車が出発してから、ちょっとホッとしてそう言った。

「これぐらいだとちょうどいいよね。綺麗で。危なくなくて。……まあ、俺は雪道全然平気だけど、前がスリップしたらきついし。」
「雪の多い国にお住まいだったんですか?」

昨秋11月、恭匡さんの結婚式で碧生くんと出逢って以来、京都まで逢いに来られたり、メールや電話を頻繁に寄越されてはいるけれど、考えてみれば、私は碧生くんのことをほとんど知らない。
興味がないわけではないが、親しくもないのに根掘り葉掘り聞くのはぶしつけな気がしていた。

「いや。L.A.で生まれ育ったから雪は降らなかったな。でも高校は北海道だったから。」

エルエー……ロサンゼルス?

「ロス。それで、そんなに明るいんですね。」
私がそう言うと、碧生くんは変な顔をして私を見た。

「……由未も『ロス』って言ったけどさ、それ、日本でしか通用しないよ?ただの定冠詞だから。」
そう言われて、私も変な顔をしたと思う。

由未さんと一緒、ですか。

碧生くんはまだ知らないようだけれど、私と由未さんは浅からぬ縁で結ばれている。
表向きは、私の従兄の恭匡さんのお嫁さん。
でも、本当は、私の異母姉妹。


「はい、到着。終わる頃に迎えに来るよ。」
「……どうぞお気遣いなく。タクシーで帰りますから。」

そう言ったら、碧生くんは苦笑した。
「送らせてよ。ほんとはそのまま京都についていきたいぐらいなんだからさ。」

……本気で、お断りします。

「そもそも、駅に迎えに来ていただくことも聞いてませんでしたけれど。」
今更だけど文句を言ってみる。

「うん。驚かせたくて。」
しれっとそういう碧生くん。

「到着時間も車両もお知らせしてませんでしたのに……ずっと待ってらしたんですか?」
「だって他に用事もないなら時間は限定できるし、車両はグリーン車以外乗らないだろ?」

……何だか馬鹿にされた気がする。

憮然としてると、すぐ後ろに銀の車が停まった。
恭匡さんの旧式のスカイラインだ。

「きたきた。」
そう言って、うれしそうに碧生くんは車を降りた。
恭匡さんに向かって手を軽く挙げてから、助手席側に回ってドアを開けてくれた。

雪が少し降っていたので、黒い傘をさしかけて……気が利く人だ。

「Please.」
「……ありがとう。」

差しのべられた手につかまって、着物の裾が乱れないように車から降りた。