「彼は水島薫。L.A.で友達になったんだ。水島が通ってた日本人学校の土曜クラスに俺が通ってて……」

「うわ!美人!え?佐藤の彼女?」
水島くんはそう言って口笛を吹いた……欧米か……

「違います。」
「……そうなればいいなと思って、口説いてるところ。」
キッパリ否定した私に肩をすくめて、碧生くんは付け足した。

「ふうん。じゃ、俺も立候補~。こないだ彼女と別れてん。なあ?どう?俺。」

……軽い……軽すぎる。
碧生くんもたいがい軽いと思ってたけれど、水島くんはそれ以上だ。

「お断りいたします。」
けんもほろろにそう断った。

「まあ、そう言わんと。佐藤、一緒に昼飯食いに行かへん?俺、おごるわ!」

めげない水島くんに連れていかれたのは、緑いっぱいの素敵なカフェ。
地野菜をふんだんに使った和食は、京都の懐石とは全然違った。
フレンチのような懐石。
店員さんもオシャレでスマートな人ばかり。

「ここ、予約必須の店だから今日は無理だろうと思ってたのに、水島、すごいな。」

……どうも、碧生くんもココに来たかったようだ。

「や~、俺じゃなくて師匠がな、ここの常連ねん。」

師匠……。
自転車の師匠?

「へえ~。師匠って、どんな人?強い?」

強い?
速い、じゃなくて、強い?
ダメだ、理解できない。

「強いで。賞金ランキング10位前後にずっといてはるわ。性格悪いしワガママやし大変やけどな~。」
さんざんな言いように、碧生くんが眉をひそめた。

「師匠に対してそんな風に言うんだ?……1年で水島のレベルを引き上げてくれたのに?」

「……ま~あ?1年以内にS級に上がって、師匠の機関車せな破門やって発破かける厳しい師匠やけけどな。」

機関車?



「当たり前やろ。今までなんぼタダ飯喰らわせてきたと思てんねん。これから俺にせいぜい恩返しせぇや。」

意地悪な言葉と声が背後から近づいてきた。

「師匠!来たんですか!?」
慌てて水島くんが立ち上がった。

「薫のおごりやろ?」
平然とそう言って、私達のテーブルに近づいてきた水島くんの師匠さん。

「邪魔するで。」
返事も待たず、当然のように椅子に手をかけて私の前に座ったのは……あれ?

私、この人を知ってるわ。
鋭い目……怖い……。

「はじめまして。水島の友人の佐藤と申します。今日は、こちらのお店を紹介してくださったそうで、ありがとうございました。」

碧生くんも立ち上がって、そうご挨拶をした。

いつも通り礼儀正しい好感を持てるご挨拶だったけれど、水島くんの師匠さんは鼻で笑った。