開場の案内が流れた。
母と私はロビーに出向き、恭匡さんを見にきてくださったお客様をお迎えした。
碧生くんは大学のお友達しか呼んでないと油断してたら、水島くんがスーツ姿でやって来た!
「え!奈良からわざわざ来られたの?」
驚いてそう聞くと、水島くんは手を横に振った。
「明後日から松戸で走るから、1日早く来ただけ。それに俺、あいつと違ってこういうのわからへんから寝てしまうかも。」
「ふふっ。私もよく寝ちゃうんですよ。邦楽って眠くなるから仕方ないわ。碧生くんの仕舞の時だけ起こしてさしあげますわ。」
水島くんは母に会釈して、客席へ入った。
しばらくして、知織さんが不安そうに薄紅色の訪問着で現れた。
「あの、暎(はゆる)さんはラジオで何を言うてんろう?本人に聞いても、自覚なくて、要領を得ないんやけど。橘さん、聞いてはる?」
……一条さん、自覚ないんだ。
「無意識に『俺達』って、配偶者がいる言葉遣いしちゃったらしいわ。ネットでは既に騒がれてるらしいわよ。」
私がそう説明すると、知織さんは額を押さえた。
「……やってくれたわね、暎さん。もはや万事休す?気楽な大学生活もここまでかぁ。あーあ。」
母がスッと知織さんに歩み寄った。
「はじめまして。百合子の母です。舞台がはねたら、京都までご一緒いたしましょう。お子さんは由未さんがお迎えに行ってくださってますので。」
母はそう言ってから、知織さんの手を取った。
「これから大変でしょうけど、お子さんを守れるのはあなただけですわ。私どもも協力できることは何でもいたします。まずは、無事にご実家に送り届けますから。」
……私と母との差はこういうところかもしれない。
母の言葉は、優しいだけじゃなく頼もしく感じた……役立たずの私とはえらい差だ。
知織さんは少し瞳を潤ませた。
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします。」
開演5分前のブザーが鳴った。
由未さんはまだ来ないけれど、私達はお席についた。
……水島くんは、本当に最初の一曲目から寝てしまった。
碧生くんの出番の直前に、由未さんがやってきて席についた。
「光人(りひと)くん、楽屋にいるから。シッターさんにも事情話して当分お休みって言ってきた。いいよね?」
小声でそう言う由未さんに、知織さんが大きくうなずいて、お礼を言っていた。
「水島くん。碧生くんの出番よ。」
隣の水島くんが慌てて、シャキーンと座り直した。
母と私はロビーに出向き、恭匡さんを見にきてくださったお客様をお迎えした。
碧生くんは大学のお友達しか呼んでないと油断してたら、水島くんがスーツ姿でやって来た!
「え!奈良からわざわざ来られたの?」
驚いてそう聞くと、水島くんは手を横に振った。
「明後日から松戸で走るから、1日早く来ただけ。それに俺、あいつと違ってこういうのわからへんから寝てしまうかも。」
「ふふっ。私もよく寝ちゃうんですよ。邦楽って眠くなるから仕方ないわ。碧生くんの仕舞の時だけ起こしてさしあげますわ。」
水島くんは母に会釈して、客席へ入った。
しばらくして、知織さんが不安そうに薄紅色の訪問着で現れた。
「あの、暎(はゆる)さんはラジオで何を言うてんろう?本人に聞いても、自覚なくて、要領を得ないんやけど。橘さん、聞いてはる?」
……一条さん、自覚ないんだ。
「無意識に『俺達』って、配偶者がいる言葉遣いしちゃったらしいわ。ネットでは既に騒がれてるらしいわよ。」
私がそう説明すると、知織さんは額を押さえた。
「……やってくれたわね、暎さん。もはや万事休す?気楽な大学生活もここまでかぁ。あーあ。」
母がスッと知織さんに歩み寄った。
「はじめまして。百合子の母です。舞台がはねたら、京都までご一緒いたしましょう。お子さんは由未さんがお迎えに行ってくださってますので。」
母はそう言ってから、知織さんの手を取った。
「これから大変でしょうけど、お子さんを守れるのはあなただけですわ。私どもも協力できることは何でもいたします。まずは、無事にご実家に送り届けますから。」
……私と母との差はこういうところかもしれない。
母の言葉は、優しいだけじゃなく頼もしく感じた……役立たずの私とはえらい差だ。
知織さんは少し瞳を潤ませた。
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします。」
開演5分前のブザーが鳴った。
由未さんはまだ来ないけれど、私達はお席についた。
……水島くんは、本当に最初の一曲目から寝てしまった。
碧生くんの出番の直前に、由未さんがやってきて席についた。
「光人(りひと)くん、楽屋にいるから。シッターさんにも事情話して当分お休みって言ってきた。いいよね?」
小声でそう言う由未さんに、知織さんが大きくうなずいて、お礼を言っていた。
「水島くん。碧生くんの出番よ。」
隣の水島くんが慌てて、シャキーンと座り直した。



